ラセン

著:ミシン


 お前ら耳の穴、クソあけて聞いとけよ。
アタシの歌が聴けるなんて、一生モンだぞ。
 




  ラセン

 まっすぐになんて生きられない。アタシはアタシを制御できない。
本能が赴くまま、気の向くままに動くことしか出来ない。
 まぁ、要するに頭が弱いコなんです。
 でも、そんなアタシに神様は1つだけいいものをくれた。
それは「歌える」ってコト。
「また、ラセンは物騒なこと考えてさぁ」
横に居た切れ目の男がアタシに笑いかけた。穏やかな笑顔に、優しい眼差し。
 アタシの同居人兼兄。
アタシは笑って言った。
「物騒なコトなんて考えてねぇよ」
彼はアタシがそう言ったのを聞いて薄く笑って言った。
「さぁ、どうだか」

 アタシ達は薄汚れたライブハウスで自分の出番を待ってる。
たった二人で。バカみたいにまぶしいステージを見つめながら。
 あの上には夢や希望が乗っかってる。
 アタシの夢は世界中の人にアタシの名前を覚えてもらうコト。そして、アタシの歌をみんなに口ずさんでもらうコト。
 この夢がかなうのならアタシはもう、何もいらない。
 命さえも、くれてやるよ。

 マイクを投げるなってライブハウスの人が言った。アタシはそれを聞きながらギターを背負って、走って逃げた。走るのは得意。
 だって、逃げなれてるからね。
盗むことも、脅すことも、殴ることも悪いことだとは思わない。だけど、アタシの前を走っているこの男を悲しませることは悪いことだと思う。
 神埼 ケン。アタシのお兄ちゃんであり、家族であり、他人。
ケンはアタシを育ててくれた人の子供。
 アタシは捨てられた子供だった。
別に同情をかいたいわけじゃなかったけど、この目の前の男には本当に感謝している。
 ってそんなコト恥ずかしいから死んでも、言わないし、言うつもりもない。

 晴れた日にはよく川原に寝そべって歌を歌ってた。
きたなくてボロいアパートを抜け出して。
 アタシ、ロック歌うけど、本当はバラードも歌える。
 でも、ケンが曲を作ってくれないと歌えない。
 アタシは情けないことに、ケンの作った歌しか歌えない。
あーあ、それだけ、アタシおにいちゃんっ子みたい。

で、アタシが生き急ぐのには理由があるんです。
 アタシ言い忘れてたけど、後少ししか生きられないんだよね。
 なんかの脳の病気。病名は長くて忘れちゃった。
血液がまわらなくなるんだってさ。そして、耳が聞こえなくなるんだって。
 命に別状はないけど、耳が聞こえなくなるのは歌を歌う者にとって死んだも同然なんだよね。
 これは困った。
で、生き急いでんの。
 アタシの邪魔するやつ等は容赦しねぇぞ。

 最後のライブの日は雨だった。
雨の中で段々なくなる聴力を必死につなぎとめようと頑張ったけど、やっぱりギターの音はかすんでいくばっかりだった。
 アタシ悲しかったけど、泣かなかった。
 空がアタシの変わりに泣いてくれたということにした。
 雨だったし。

で、次の日はアタシ死にました。
 だって生きててもしょうがないじゃん。歌えないし。聞こえないし。
 後でお墓の前でケンが泣きながら、色んなこと言ってたけど忘れちゃった。
 ケンのこと大好きだったんだけどなぁ。分かってくれてかな?
それだけが心残り。
 でも、さ。アタシって結構ワガママに生きてきたから結構この状態に満足。
 歌を死んでからも歌えばいいのよ、歌えば。
 っつーコトで、耳の穴さらにあけてアタシの歌聴けよ。
 神様。

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