葬式

著:星新二

 偉大なる発明家エヌ氏が亡くなったのは、一週間ほど前のことだった。彼の死を悲しんで、葬式には助手をはじめ何百人もの人間がかけつけた。
「これより、偉大なる発明家エヌ氏の追悼の儀をとりおこないたいと思います」
 エヌ氏には家族がおらず、身寄りもなかったので、喪主はエヌ氏が生前もっともかわいがっていたケイ助手がつとめた。
 あちこちですすり泣きが聞こえる。自分も泣きたいのを我慢して、ケイ助手は淡々と式を進行する。
 式は順調に進み、壇上ではエヌ氏の友人、エム氏が涙を浮かべながら弔辞を述べている。
「生前のエヌ氏はとても好奇心旺盛で・・・」
 言葉というより、嗚咽に近い弔辞だった。エヌ氏が誰からも広く愛されていたことを知り、ケイ助手は胸が熱くなった。
 弔辞ももうすぐ終わろうかというとき、式場のどこかでガサゴソという音がしはじめた。風の音だろうと、誰も気にしていなかったのだが、しばらくして棺桶の蓋がもぞもぞと動き出すのをみると、式場にいた人間はみなパニックになった。ただ一人この騒動に気づいていないのは、壇上で弔辞を述べているエム氏だった。
「みなさん、落ち着いてください!」
 ケイ助手はそう言って会場のパニックをしずめようとした。そんな彼の努力をあざ笑うかのように、会場ではさらに奇妙な現象が起きたのだった。
 棺桶の蓋が完全に開いて、中から死んだはずのエヌ氏が出てきたのである。これにはエム氏もびっくりして、
「ひゃあ、お化け!」
 と叫んだ。エヌ氏はこのパニックを楽しんでいるかのように笑って、言った。
「どうやら、今度の発明も成功したようだな。(生き返りタイマーシロップ)。死ぬ前に生き返りたい時間を想像してこのシロップを飲めば、好きな時間に生き返ることができる。今回は一週間だったが、一年だって、いや、百年後にだって生き返ることができる。これを使えば、今までは見られなかった数億年先の未来だって見られるんだぞ」
 会場の雰囲気がおかしいことに気づいて、彼は口をつぐんだ。
「世話になった人の葬式だから、わざわざ時間をつくってきてやったんだぞ。生き返ったんだから、香典は返せ」
「そうだ、そうだ。俺なんか三十万も包んだんだぞ」
「香典は返せないが、かわりにこのシロップをやろう」
「そんなものいるか。人の気持ちを弄びやがって」
 そう言って、参列者の一人がエヌ氏に殴りかかった。それをよけようとしたエヌ氏はつまずき、棺桶の角に頭をぶつけて死んでしまった。
 一部始終を見ていたケイ助手はこう呟いた。
「生前のエヌ氏はとても好奇心旺盛で・・・」


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